宮本省三『メルロ=ポンティとリハビリテーション』、『現代思想』2008年一二月臨時増刊号、pp. 182-199.
概要:認知運動療法のカルロ・ペルフェッティの理学療法の意義を、メルロ=ポンティの哲学と共鳴させながら探ること。
構成:
イントロダクション、問題提起
1)指しゃぶり
2)思考の羅針盤
3)人間機械論批判
反射概念の展開とその批判
1)生命の演ずる人形劇――デカルトの反射
2)反射のメカニズム
3)メルロ=ポンティの反射批判
4)「異常な反射」という概念の確立――姿勢反射、共同運動、連合反応の発見
7)反射とリハビリテーション治療
8)認知運動療法の誕生
9)脳の中の身体を治療する
10)「認知」を生きる
1)指しゃぶり
・脳性麻痺児は、情動世界(快不快)のみで、認知的な世界の存在を知らないのか。
・指しゃぶりに対する反応。口に入ってきた手が自分のものだと認知していない。目と手の協調運動ができていない。
・ 指しゃぶりの意義。「自己の身体の存在に気づかなければ脳にホムンクルスは形成されず、自己意識は創発しない」→ 〈自己の身体を「感じる」こと〉と自己意識の創発の連動
2)思考の羅針盤:
・「肉としての身体が叫んでいる」
・「身体が世界と対話する器官である」:世界と触れ合う、触れられる、知覚と運動の円環性。
- 185上段の引用。キーワード。交差(キアスム)、問いかけ、触れつつある左手に触れる(切迫感)、身体がみずからの物質性を感じるとき。触覚は物の中から生起する。私的世界から間主観的世界へ。
・手や口が認知器官であること。受動的綜合、キネステーゼ。自己意識。
3)人間機械論批判。ペルフェッティが乗り越えようとしたもの。要素還元主義、反射主義、行動主義、関節可動域訓練、禁漁区増強訓練
反射概念の展開と問題点
1)生命の演ずる人形劇――デカルトの反射。
ウィリス。ベルとマジャンディ、バビンスキー、シェリントン
3)メルロ=ポンティの反射批判。「意味をもった全体(ゲシュタルト)」としての行動。
4)「異常な反射」という概念の確立――姿勢反射、共同運動、連合反応の発見
新たなリハビリテーションへ
1)反射とリハビリテーション治療
2)認知運動療法の誕生。
・脳の認知過程の活性化により異常な反射を制御する。
・随意運動:身体と環境との相互作用を意味として解釈する能力の発達
・問いに応じて情報を構築
・物体に触れる手は「差異を抽出」
・身体を介して世界に意味を与える。
・新たな行為の創発。
3)「脳の中の身体」を治療する
・目を閉じて自分の身体を感じとること。
・体制感覚への「注意」
・身体の「ここ」と「そこ」
・身体図式
まとめ
世界の差異への気付きこそが自己意識の現れである。
展望:
ペルフェッティの認知行動療法とメルロ=ポンティの現象学が共通に目指しているものはなんなのか。またそこに、「芸術」はどうかかわりうるのか。