廣瀬浩司:授業資料格納所

授業用レジュメの残り物

先端文化学概論 5月12日 マティスとその「選択」

ここまでのまとめ:「序説」ダンスの身体の内と外
1) 身体は、運動しながら、外界との境界線を区切り直し続けて、「生きている」。一見まとまった行為は、無数の調整を含んでいる。それを司るのは「行為遂行的イメージ」(河本英夫
2) ダンスのようなふだんと違う運動においては、とりわけみずからの身体についての新たたな気づきが生まれる。この気づきが、新たな動きや感覚に連動する。
3) その気づきは、重力や空気や光(や音)に関係したものである。

・ 入門書。
『身体をめぐるレッスン』(岩波書店、全4巻)にある論文から拾い読み
『知の生態学的展開』(全3巻)から拾い読み
『身体・セクシュアリティ・スポーツ』(世界思想社)。身体論の基本書の解説。
・ やや専門的なもの
竹内敏晴『声が生まれる』(中公新書
河本英夫『わたしの哲学──オートポイエーシス入門』(角川選書
宮本省三『脳の中の身体』(講談社新書)リハビリテーションと身体
佐々木正人『新版アフォーダンス』(岩波)身体と環境の「エコロジー生態学)」
市川浩『〈身〉の構造』(講談社学術文庫)身体の哲学入門。芸術への応用にも意欲的。
=====================
第一章 画家とその身体

アンリ・マティスの「筆」
 マティスの「意図」とは自由に「思考する筆」。
・ 意志とは別の動き。「マティス自身が驚く」
・ しかし無数の選択肢の中から「選択」は行われる
・ 「手がためらい、思いをこらしたことは本当であり、したがって選択があったということ、そして選ばれた線が、画像の上に散在している無数の条件(中略)を満たすように選ばれた、ということも本当なのだ」(メルロ=ポンティ『世界の散文』(みすず書房)。
・ 「意志」でもなく「完全な受動性」でもない、「あいだ」の世界で身体はひそかに働いている。
・ このような身体のひそかな働きが「文化」と呼ばれるものを支えているのではないか?

cf. モーリス・メルロ=ポンティ(1908-61)。フランスの哲学者。とりわけフッサールの「現象学」を、当時のゲシュタルト心理学の成果を取り入れつつ、身体の問題を中心に探究したことで知られる(『知覚の現象学』)。当初はサルトルと協同していたが、マルクス主義への態度をめぐって訣別。
 また身体から出発して、それが言語や芸術や歴史的世界にどのように「取り上げ直されている」かをたどっていき、たとえば言語にも、創造的な沈黙があることなどを出発点に、表現論を練り上げていく。(『世界の散文』)
 このように心理学、言語学社会学歴史学そして当時の芸術の動向などを踏まえつつ、晩年は『見えるものと見えないもの』という大著を準備していたが、1961年急死。晩年の思考は、芸術論である「眼と精神」に凝縮されているが、その最後の哲学の評価はこれからである。