廣瀬浩司:授業資料格納所

授業用レジュメの残り物

メルロ=ポンティ『知覚の哲学』イントロ

メルロ=ポンティ(1908-1961)
フランスの哲学者。とりわけフッサール現象学の導入、そしてその心理学、精神医学、社会学、教育学、人類学、芸術論への応用で知られる。主著は『知覚の現象学』(1945)。1961年に心臓麻痺で死亡したとき、超大作『見えるものと見えないもの』を準備していた。現在は芸術論、認知心理学(「身体化されたこころ」)、認知言語学、教育学(ピアジェ、ワロンを越えて)、看護学社会学(「間身体的協同性」)、人類学理論(「もの」の人類学)、スポーツ人類学(「わざ」言語)などに広範な影響を与えている。テクスト『知覚の哲学』は1948年のラジオ講演で、『知覚の現象学』を出版した後の彼の問題意識が的確に語られている。

授業の目的:メルロ=ポンティが知覚と呼ぶものは、実際は身体的な感覚を指すものである。しかしメルロ=ポンティは、この知覚や身体性についての分析が、言語、科学、芸術、そして社会を理解するに際しても、基本的なモデルになると考えている。身体感覚にたちどまりながら、こうした広範囲の「文化活動」や「制度」をどのように理解することができるか、あるいはそれを組み替えることができるのか、考える。

メルロ=ポンティを今読むのが役立つのは?
・ 身体芸術や身体感覚の病理や障害、身体的・感性的な他者とのかかわりの意義(間身体的協同性)などを語るための用語や概念を身につけたい人。有名なものとしては、『知覚の現象学』における「幻影肢」「失認症」などの分析がある。また精神分析を哲学に取り入れようとした初めのひとりでもある。(『知覚の現象学』「幼児の対人関係」『意識と言語の獲得』など)。
・ 芸術、言語、社会などにおける「身体性」や、他者とのかかわりにおける「間身体性」の意義などについて興味ある人。(芸術についてはすでに「セザンヌの懐疑」『眼と精神』を読んだが、本講演でも中心的主題である。)(『シーニュ』(論文集)、『意味と無意味』(論文集)『見えるものと見えないもの』(キーワード:間身体性、キアスム、蝶番、絡み合い)、
・ 「ポストモダン」(フーコードゥルーズデリダ)の安易な応用に飽き足らないで、さらなる一歩を進み出したい人。マルクス主義を踏まえor越えて、新たなる協同性(<共>)の立ち上げを追求したい人。(『弁証法の冒険』『見えるものと見えないもの』)
・ 身体と環境(自然的環境、社会的環境)との関わりに関心のある人(たとえば環境論を踏まえた建築論への応用)。動物の視点から人間を考えたい人(『知覚の現象学』の「自然」についての章。『言語と自然』の自然についての講義、『自然』)。キーワード:野生の存在、なまの存在。
・ 看護、ケアにおける身体的な「ふれあい」に関心のある人(西村ユミさん)。
・ ミクロな事象に宿る普遍性について考えたい人。
構造主義の哲学的な意味を考えたい人。(「間接的言語と沈黙の声」『シーニュ』所収)
現象学を勉強したい人。現象学的な考え方の「癖」を身につけたい人。(『知覚の現象学』、『シーニュ』所収のフッサール論。)キーワード:地平、知覚的領野、
・ フランスの実存主義を勉強したい人。
メルロ=ポンティを通してフランス語を勉強したい人。
授業の進め方
・ 第一章は廣瀬が担当します。
・ 2章以降は2人が担当し、基本的には要約しながら、「面白いところ」を発見して下さい。2回ごとに一章進み、二回目は議論を中心にしたいので、全員が同じ視点で精読しておいてください。
卒業論文メルロ=ポンティと関係する人は、自分の論文の一部をメルロ=ポンティと関係付けて発表して下さってもかまいません。テクストは『知覚の哲学』に限らないとします。

成績:
・ 発表およびそのあとの議論参加などに出席点を加味。とくに発表の後の授業はかならず出席して下さい。
・ 学期末に発表後の思索を書いたレポート。なんらかの理由で発表しなかった人は、別個もう少し長いレポートを指定します。
 
連絡先
hirose.koji.gt@u.tsukuba.ac.jp
資料は原則として前回分だけ保存しておきますが、以後は廃棄します。
レジュメは適宜http://d.hatena.ne.jp/parergon/にも載せますが、かならずではありません。