廣瀬浩司:授業資料格納所

授業用レジュメの残り物

先端文化学研究V ベーコンまとめ

フランシス・ベーコン(Francis Bacon):1909-92ダブリン生まれの画家
問い:
・ 主題の暴力性でもなく、生な身体性でもないような、「感覚の力」はどのようなものか
・ イメージが凝縮されたり、変換されたりする。これはどのような操作か?
・ 即興とはことなる、「偶然性のコントロール」とは?

彼のコンセプト
• 「絵画はイラスト的であったり、物語的であってはいけない」(ポロックら、「抽象表現主義」に対抗。
• 「感覚の(暴)力は、脳神経に直接訴える。自分は希望がなくても楽観的だ。暴力的なのは私の絵画ではなく、世界のほう。自分は絵画に生命を求める。」
作品の特徴
・ 身体や顔貌に歪みを与える。
・ 「磔刑図」と「肉」に同じ感覚の力。「肉屋において宗教的なものを感じる」(問い:宗教性とは?)
・ 身体の流動性幾何学的枠付け
・ 骨(構図)と肉(存在感、ボリューム感)の結合。
・ ベタ塗りの背景
・ 写真(マイブリッジなど)や野生動物や心霊写真の写真をみながら、人物像を描く。
・ 絵の具を投げつけて、偶然性(チャンス)を制作プロセスに組み込むこと。

代表作
・ <磔刑の基礎にある人物(figures)の3つの習作> 1944
磔刑図の三幅対(トリプティック)。
・ <ペインティング>(1946)
鳥が舞い降りるイメージ+制作プロセスで「チャンス」が開ける→全体のイメージが変化。
「叫び」をモチーフとする画像集
「恐怖よりも叫びを描きたかった。恐怖を描くと物語になってしまう」
・ <犬を連れた人>(1953)
エドワード・マイブリッジ(1830-1904)イギリスの初期の写真家。人物や動物(馬、犬)の連続写真を撮影→ アニメーション。だがベーコンはマイブリッジからどのように「運動性」を受け取ったのか。「運動とは、形や色と同じように、対象のひとつの属性である」(メルロ=ポンティ)。この属性としての運動性のみを描いた?

• 写真のイメージを変形。
「写真のほうに現実の強さを感じる」(ベーコン)
• ときに人物の顔を描くときにサイの写真を見ていたという。。。写真のイメージに彼は何を受け取り、絵画に何を返したのか??
・ 鏡、影の独特な使い方。→ 流動的でも固定的でもないようなイメージ??
・「チャンス」:コントロールされた偶然性。→ (仮説)制作プロセスの「節目」のようなもの?それによりイメージが重層的になる。

• 「口が顔を横切っていく。そこにサハラ砂漠のような距離が見えるような肖像画を描きたい」→ 異なった「次元」を一つの画面に持ち込む。「感覚的な次元変容」(廣瀬浩司
まとめ
・ベーコンが描いた「感覚の力」はどのようなものか
・ この「感覚の力」には、写真を初めとする多くのイメージが「重ね書き」され、重層化している。これはひとつの「奥行」の探究ではないか。
・ 偶然の中の論理、論理の中の偶然。
ジル・ドゥルーズの解釈(『感覚の論理』)
・ 流動的でも固定的でもある人物=かたち(figure)
・ 「器官なき身体」(演劇家、詩人アルトーの言葉)。器官を持たない身体ではなく、「有機的な組織を持たない身体」「非有機的な生命」
・ 人間が動物になり、動物が人間になる、「なる(生成)」の運動
イメージの変換について
・ 「似てない手段で似せること」
なんでないか(パースの記号学
・ 類似記号(icon):写真とその被写体のように、記号と対象がなんらかのかたちで似ている。
・ (1)イメージ(写真など)
・ (2)ダイヤグラム(図表):構造や関係の類似。地図、グラフなど
・ (3)隠喩。比喩的な表現。
ドゥルーズは、ベーコン的変換はダイヤグラムのひとつだという。しかしその変換には「感覚の力」「次元の変換」が介入しているようなダイヤグラムなのだ。
参考文献:
マーティン・ハマー『フランシス・ベーコン』(青弓社
ジル・ドゥルーズ『感覚の論理』(法政大学出版局
デイヴィッド・シルヴェスター『肉への慈悲』(筑摩書房):インタビュー


試験について
日時:7月28日(火)3限。回答時間:1時間程度(持ち込み不可)
出題の仕方:
1) あくまで授業をもとに、記述して下さい。伝聞や他の授業の内容は書かないこと。
2) 問題は複数としますので、全体におちのないよう
3) 固有名詞(人名、作品名)、だいたいの時期、典拠の題名などは覚えておいてください。
4) 授業を受けた上で、自分が自発的に調べたこと、考えたことなどを記すのは加点の対象です。

評価点:
・ 授業の意図を汲み取ろうとしているか
・ それを自分なりの言葉に咀嚼しようとしているか
・ それを論理的に展開できるか。
・ さらに受け身の学習だけでなく、関連文献、作品などを調べているか(加点)

これまでのレジュメはhttp://d.hatena.ne.jp/parergon/も参照(ただしレジュメはあくまでレジュメです)

参考文献追加:
『纏う―表層の戯れの彼方に』(神尾達之編、水声社